第2回 構造計算とはなにか
担当 衛藤照夫 小田木洋子 伏木道雄
音声
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耐震強度が1以下しかないとはなにか
この数値は保有水平耐力に関する数値で、建物の耐震強度の強弱を表し1以上が必要とされる。
現在の建築基準法では、40〜50年間に1度遭遇するかもしれない大規模地震(震度6強から7)に対しては人命に危害を及ぼすような大きな建物の変形などの被害を生じない。また、しばしば訪れる中規模地震(震度5強)に対しては、ほとんど建物の損傷を受けないという考えで建物強度を定めている。このような耐震強度を持つ場合が1.0である。つまり、この数値が1未満であれば計算上右記の性能は発揮できないということである。国交省は耐震強度の指数0.5未満の分譲マンションは使用禁止命令の目安とし建替え支援の対象としている。
これらは設計上の話で、施工が不完全であればさらに強度は落ちてくる。また、古い基準法時代(昭和56年以前)に建てられ現在の基準に満たない建物は、既存不適格建築物といい、かなりの数がある。建築基準法上合法的なものであるが、現在の構造基準には満たない。
震度階
震度5強などの震度階とは、気象庁が発表している、地震の大きさの程度(どれぐらい揺れたか)をあらわす指標値。
1996年(阪神淡路大震災の翌年)に計測震度計により自動的に観測するシステムに切り替わり、同時に、従来の震度階(0から7までの8段階)に「5弱」「5強」「6弱」「6強」を追加した計10段階の分類になった。
結局、安全な建物とは
建物は完璧な機械ではない。材料、施工の誤差や性能のバラツキがある。時間とともに老朽化して強度も低下する。また、地震のように場所により天候によりその影響が千差万別の天災相手。従って余裕を持った設計、計算がなされてきている。超高層の場合は、時刻歴応答解析といって、コンピューターによる詳細なシミュレーションをしており、この場合は究極の判断ができている。一般の建物では安全率をみていて、建物による耐震性能に多少のバラツキがあっても基準内に納まるよう考えられている。先ほどの既存不適格建築物も数多くある割りには深刻な状況にならないのは、この安全率によるところが大きい。従って過剰な反応は無用と思うが、法律の考え方は知って欲しい。大地震に遭遇したときに建物の損傷はあるが、人命は守られるという考え方はあまり知られていなかったと思う。
人間はある意味で確率論の世界で生きている。また、安全性も選択されるものでもある。ある構造設計者が、未曾有の大地震が来て一番先に倒れる建物の設計はしないが、最後まで倒れない建物の設計者にはなりたくないといっていた。これは、安全性と経済性のバランスをいうもので、真実の声と思う。しかし、本来は、この場合も選択で最後まで倒れない建物を望む建築主がいてもよいとは思う。
行政の対応は
基準法や建築士法の改正を想定した国土交通省の社会資本整備審議会は5月24日、耐震強度偽装の再発防止策の検討を再開した。構造や設備など専門分化の資格を設けるかなど建築士制度の見直しや建築主らに対する責任保険加入の義務付けを議論し、8月末に最終報告をまとめる。その後、法律の抜本改正などを引き続き審議する予定である。